Quiet Corner -心を静める音楽集-

Quiet Corner -心を静める音楽集- Web連載 第13回

ここ数年、季節の緩やかな移り変わりを感じることも少なくなりました。厳しい残暑が終わると、急に寒くなって、気がつけば冬、なんてこともあり、文字通り、小さな秋を見つけては、その貴重なひと時を存分に味わいたくなるものです。このコラムをお届けする頃には、きっと東京も、イチョウ並木の紅葉が見ごろを迎えているでしょう。爽やかな秋風を感じながら、気分も新たに日々過ごしていきたいものです。セーターやコートを引っ張り出して、衣替えするように、音楽も新調してみてはいかがでしょうか。今回はそんな穏やかで色づく季節にぴったりの作品を紹介させていただきます。

イギリス・ロンドン出身の若手ピアニスト、デミアン・ドレリのピアノは秋の風景ように味わい深さが感じられます。デビュー・アルバム『ピンク・ムーン~プレイズ・ニック・ドレイク』は2021年に録音された作品で、今年の3月に日本のジャズレーベル“ミューザック”より国内盤としてリリースされました。デミアンはクラシックの分野で活動しているピアニストですが、彼自身はキース・ジャレットからの影響を受けていて、ピアノ・タッチにはどこかジャズの要素も感じられます。これは、彼が影響を受けたという、もう一人のアーティスト、ニック・ドレイクのアルバム『Pink Moon 〜 Plays Nick Drake』を、ピアノの独奏で丸ごとカヴァーした作品。ニック・ドレイクは60年代から70年代にかけて3枚のアルバムを残し、わずか26歳でこの世を去り、近年再評価が著しい伝説のシンガー・ソングライターです。デミアンの優しく親密な演奏によって、ニックが遺した音楽が新たな魅力をもって蘇ります。

Damian Dorelli / Pink Moon 〜 Plays Nick Drake

Damian Dorelli / Pink Moon 〜 Plays Nick Drake

Justin Orok / Kanata

Justin Orok / Kanata

そして、カナダ・トロントを拠点に活動するジャスティン・オーロックもまた、ニック・ドレイクの影響を受けたシンガー・ソングライターです。カナダといえばジョニ・ミッチェルやブルース・コバーンといった偉大なるアーティストたち(私のお気に入りです!)を生んだ国として、音楽ファンからは一目を置かれていますが、このジャスティンもまた彼らの遺伝子を受け継ぐ素晴らしいアーティストの一人です。穏やかでジェントルな歌声と、フォークとジャズが絶妙に溶け合ったメロウなサウンドも素敵ですし、ビブラフォンや管弦楽器を取りいれたアレンジも心憎いほど見事。僕ははじめて聴いた瞬間から虜になってしまい、思わず同じ趣味をもつ友人たちにシェアしてしまいました。先ほどのデミアン・ドレリ同様、ジャスティンもまだあまり知られていないアーティストかもしれませんが、光や風といったオーガニックの風合いをもった、季節の移ろいに寄り添ってくれるような音楽を探している人には、ぜひおすすめしたい作品です。

最後に、今回のコラムで名前も挙がったニック・ドレイクもやはり忘れてはならないシンガー・ソングライターの一人です。生涯で3枚のオリジナル・アルバムを録音しておりますが、はやり深まる秋から冬へかけて聴きたくなるのは、彼が1972年に発表した名作『Pink』。ほぼ全曲がニックの歌とアコースティック・ギターで構成されており、トータル・タイム28分という儚さもまた魅力のひとつです。当時、ニックはうつ病に悩まされていて、決して幸福な人生を送っていませんでしたが、悲しみの奥底に光る、彼の純粋な美しさが、聴くたびに心を打ちます。

Nick Drake / Pink Moon

Nick Drake / Pink Moon

【プロフィール】
山本勇樹
HMV本部にて商品バイイングを担当する傍ら、ラジオやUSENの選曲、数多くのライナー・ノーツや雑誌への寄稿を行い、2014年には書籍『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』を刊行。過去に文具ブランドのデルフォニックスや洋服ブランドのニシカとコラボレーションを実現。また友人の吉本宏と共にbar buenos airesの活動も行う。2016年にはモントルージャズ・フェスティバル50周年の公式リポートを担当した。2020年12月に韓国にてクワイエット・コーナーの新刊を出版。2021年8月には、7年ぶりの新刊『クワイエット・コーナー 2~日常に寄り添う音楽集』を刊行。
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山本勇樹

HMV本部にて商品バイイングを担当する傍ら、ラジオやUSENの選曲、数多くのライナー・ノーツや雑誌への寄稿を行い、2014年には書籍『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』を刊行。過去に文具ブランドのデルフォニックスや洋服ブランドのニシカとコラボレーションを実現。また友人の吉本宏と共にbar buenos airesの活動も行う。2016年にはモントルージャズ・フェスティバル50周年の公式リポートを担当した。2020年12月に韓国にてクワイエット・コーナーの新刊を出版。2021年8月には、7年ぶりの新刊『クワイエット・コーナー 2~日常に寄り添う音楽集』を刊行。